実践的な病院BCPづくりの試行

新型コロナウイルスの感染が急拡大し、島根県でも感染者が1,000人代に至るなど、びっくりするような状況になってきました。私たちの周りでも感染する方が増えてきました。

学校は夏休みが始まりますので、あちこちで起きている家庭内での感染は減ると思いますが、一旦感染すると熱が続く人もいるようですし、とにかく周りに迷惑がかかりますから、感染予防にはさらに注意し、かからないような行動をとり続ける必要がありますね。


さて、BCP関係では、筆者は最近はもっぱら病院のBCPのみに携わっており、一般企業のBCPからは遠ざかっているのですが、今回はそれを踏まえて現在進めている病院でのBCP策定の試験的な取り組みについてお伝えします。

目次

災害拠点病院のBCPの5つの類型

これまで島根県内の複数の「災害拠点病院」のBCP策定や訓練の支援、鳥取県の一般病院や産科、透析病院のBCP策定支援に携わる機会をいただきました。


それらの経験の中で、BCP策定が必要となった災害拠点病院の皆さまのBCPがどのようなものかを拝見させていただいたところ、

パターン1:策定済みの災害対応マニュアルにBCPの要素を加えて、一つの計画として取りまとめた
  → 個人的にはこれが一番良いと考えています!

パターン2:策定済みの災害対応マニュアルに機能制限時の対応等を加え、新たにBCPをまとめた(マニュアルとは別にBCPを整備)

パターン3:概要のみのBCPに策定済みの災害対応マニュアルを添付資料として加え、新規のBCPをまとめた(マニュアルの内容とほぼ同じだが、別文書としてBCPを整備)

パターン4:策定済みの災害対応マニュアルに加えて、新規に簡易なBCPをまとめた(マニュアルとBCPは別文書で、BCPは概要のみ)

パターン5:災害対応マニュアル等がなく、新規に簡易なBCPをまとめた

と、病院によってまとまったBCPはまちまちで、以上のような5つに分かれていました。


(1)から(4)の病院では、具体的な対応マニュアルがあるため、マニュアルをもとにした訓練が行われています。

しかし、(5)のBCPには具体性が乏しいため、災害時にはどのように動けばよいのかわからないという課題がありました。そこで、(5)の状態だったある病院(A病院とします)のご支援をさせていただくことになりました。

課題:全体の動きを先にまとめること

病院のBCPづくりを進める場合、恐らく単年度で計画書をまとめあげるという形になると思いますが、複数の部門に参加してもらいながら計画をまとめる必要があるため、結構な作業が必要となります。

特に部門ごとの対応をまとめるには、担当部門に作業をを依頼する必要があります。多くの場合、事務局は作業用のひな形を各部門に提示し、それを埋めてもらうことになるはずです。

その際、ちょっと難しいのが、各部門が全体の動きを理解しながら、自部門の動きを考えることができるか、ということです。

A病院のご支援の時に、こんなことがありました。

具体性の乏しいBCPを補完するために、初動対応と事業継続対応に必要となるアクションカードづくりを進めることにしました。

災害対策本部メンバーを含む、各部署の方にお集まりいただき、最初に災害発生時の初動の動きを検討いただき、続けて業務縮小・病院避難になった場合の動きを検討いただくというステップを踏みました。

しかし、災害対策本部のメンバーの方から「この進め方だと、災害時の対応全体がわかりにくい」というご意見をいただきました。

そこで、この先の進め方として、一体どうしたらよいだろうかと、解決策をいろいろ考えてみることに・・・。

その結果、災害発生直後から災害対策本部が行うべきことを弊社側で一旦全部まとめて、それをご提示することにしました。

まずは災害後の対応の全体像を理解できるような資料をまとめたわけです。

あとでいろいろ思い返すと、最初にこのようなマニュアルに目を通していれば、全体の動きが理解しやすくなりますが、何も無い中で自部署の動きを検討するのはかなり難しいだろうということでした。

次にBCPをまとめる支援をする時は、先に本部マニュアルを整備し、病院全体としての動き方を一旦まとめた上で、各部署の対応を整理していくという進め方が良いだろうと考えるようになっていました。

そうしているうちに、災害対応マニュアル等がない病院から、BCP策定のご依頼をいただきました。

実践的な病院BCPづくりを試行実施中

昨年度からお手伝いしている病院では、前回の支援上の課題を踏まえて、以下のようなステップでBCPの整備を進めています。


〇第1段階:災害対策本部向けのマニュアル整備

まず最初に病院全体の基本的な災害対応と事業継続対応を整理するために、災害対策本部の動きを中心にマニュアル化する。 

これは昨年度行った内容で、災害対策本部のメンバーの皆さまに毎回お集まりいただき、本部の体制づくりと行うべき役割、指示事項、対応上の概ねのポイント等を整理しました。


〇第2段階:病院全体の共通対応事項の整理

本部マニュアルには含めることができないが、病院全体の動きとして個別にマニュアル化が必要と思われる内容を整理します。

既に、職員数が少ない深夜帯で災害発生した場合、誰がどのように動くのかを整理しました。

先日は外来中止等の決定がされた場合、該当部署の職員がどこの部署の業務を支援するのかを事前に決めました。病院避難が必要となる場合の職員の再配置方法も事前に検討しました。

今後は病院避難の方法を具体的にマニュアル化する予定です。


〇第3段階:部署別の対応マニュアル

第1段階、第2段階の検討では、まだ各部署がどのように動くのかは整理されていないため、これまでの内容を踏まえた上で、3段階目としてやっと部署ごとの対応を整理していきます。


〇第4段階:訓練実施

ひとおり対応ルールができた段階で訓練を実施し、それまでにまとめた計画類を見直します。


〇第5段階:計画の維持改善方法等のルール化

最後にこれまでBCPの維持改善の方法や訓練・教育の進め方をルール化するとともに、今後行う各種の事前対策を整理する。


以上のような5段階に分けて徐々に文書化を進め、訓練も行っていきながら、定着を図っていく予定です。


現在進めているご支援では、当初から複数年度にかけて徐々に進めることでスタートしたのですが、この病院での取り組みは一つのモデルになるのではないかと思っています。


今後の進捗状況については、随時お知らせしたいと思います。

病院BCPの参考資料

BCP策定が義務付けられた介護施設向けには、BCP作成用のガイドラインとひな形が公開されました。しかし、厚労省は病院向けのひな形は公開していませんが、病院BCPに関する情報は多数公開されているため、ネットに公開されている関連する資料をまとめてみました。


■厚生労働省

BCPの考え方に基づいた病院災害対応計画作成の手引き(平成25年3月)

※事後の事業継続対応手順を網羅した計画と言うよりは、病院機能を維持するために現状の計画を点検するための資料となっています。

次の2つは研修会での説明資料です。
事業継続計画(BCP)策定手順と見直しのポイント① 

【訓練編】事業継続計画(BCP)策定手順と見直しのポイント②
 

ワーキンググループ資料
在宅医療・ケア提供機関の事業継続計画(2022.6.15)
 第8次医療計画等に関する検討会 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ
 


■自治体による病院BCPのひな形
〇東京都
 医療機関における事業継続計画(BCP)の策定について

※災害拠点病院、災害拠点連携病院、一般病院向けに策定用のガイドラインと文書サンプルが掲載されています。サンプルも分かりやすく、参考資料として秀逸です。


〇静岡県
 病院における事業継続計画(BCP)策定の手引き

※東京都と同様の資料です。


〇広島県
 事業継続計画(BCP)策定のために

※厚労省が行った医療機関向けBCP策定セミナーで利用したひな形をもとにしています。内容は東京都のモデルよりも簡易になっており、島根県内のいくつかの災害拠点病院がこのモデルを使ってBCPをまとめていました。


〇鳥取県
 医療機関のBCP策定について

※比較的簡易な様式が掲載されています。鳥取県内ではいくつかの医療機関がこのひな形をもとにBCPを策定しています。

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