これまで、特に島根県内の災害拠点病院のBCPをかなり拝見させていただきました。
複数の病院ではBCPの策定や改善作業のご支援に携わらせていただき、現場の方からもいろいろとお話を伺う機会もありました。
少数ですが、中には非常にうまくまとめられ、運用されている例が見られています。
しかし、多くの場合は課題がかなりあるように感じています。
これらの経験を踏まえて考える病院BCPの文書構成のベストプラクティスにあわせて、病院BCPの文書面での課題と考え方についてお伝えしたいと思います。
1.病院BCPの文書構成ベストプラクティス
改めて考える病院BCPの文書構成のベストプラクティスは以下のとおりです。
文書1:災害対策本部運用マニュアル
・初動から事業継続対応までの一連の対応の概要をまとめたもの。
災害等が発生した場合、本部員はこのマニュアルを参考にする。
・参考資料に病院の設備状況や非常時優先業務の一覧等も含める。
※可能であれば、概要版や抜粋等もまとめておくことなお良い
文書2:初動対応アクションカード
・災害対策本部が立ち上がるような場面で本部と各現場責任者が
どのように動くのかを記載したもの。
・災害時に設置されるトリアージや避難等の活動ははこちらでま
とめる。
※アクションカード作成が難しい場合は無しでもOK
文書3:特定作業の実施マニュアル
・医療機器の手動作業など、いつも行わないが停電・断水等の
際に行わなければならない手順書。現場スタッフ用。
文書4:BCP運用計画
・訓練や計画の見直し、文書管理のルールをまとめたもの。
・BCPの強化に必要となる事前準備や今後の整備計画等も含む。
様式
・災害の時に利用する報告様式や点検リストをまとめます。
・教育計画や訓練計画、実施報告の様式も準備し、毎年この様式を
利用して、実施計画を作成します。
資料
・連絡先や備蓄品、医療資材等の一覧をまとめて、定期的に更新します。
関連計画
・消防計画や他のリスク管理関係の計画
これだけ見ると文書構成が多いため、「これは無理だ!」と感じると思うでしょう。
しかし、「必要な人に必要な情報が手に入る」ようなものとして考えるなら、このような形がベストと考えていますし、結果として作業の2度手間がなくなり、今後の取組みもシンプルになると思っています。
2.多くの病院BCPに見られる課題と対応
特にあちこちの災害拠点病院の実際のBCPを拝見したり、策定・改善のご支援に携わらせていただく中で、病院の方からよく受ける質問や課題などには以下のようなものがあります。
(1)BCPと災害対応マニュアルの関係が不明瞭
災害対策マニュアルがある中で新しくBCPをまとめる時には、この2つの違いがよくわからず、どうしたらよいのかという質問をよく受けます。
一方、病院でまとめられたBCPを拝見すると、
・雛形をただ埋めており、既存の災害対策マニュアルとの整合がほとんど無い
・逆に既存の災害対策マニュアルの内容が、BCPの中にほとんど転記されている
というものがあります。
これでは病院にとっては管理する文書が増えただけで、BCPがある意味が少ないように感じます。
そこで、既存の災害対策マニュアルとBCPは『できるだけ一本化するのが良い』とお伝えしています。
その意味で、上で紹介した文書1の「災害対策本部運営マニュアル」としてBCPをまとめるということをお勧めしています。
(2)このBCPでは動けない!
BCPを作り終えた後に担当者から「これでは動けない」とよく聞きます。
確かにBCPが出来たからと言って、残念ながら「すぐ動ける」ことはほぼありません。
しかし、特に病院BCPの雛形を使って計画を作られた場合、BCPには具体的な対応方法が記載されていない場合が多く、私が見てもどのように動くのかがイメージできないものが多いです。
そこで、災害対策本部員と各現場責任者はどのように動きはじめればよいのかということがわかるように、文書2の「初動対応のアクションカード」をまとめることをお勧めしています。
いざという時にあわてず、大きな抜けもれの無い対応を行うためのチェックリストです。
ただし、これにも問題があります。
それは、アクションカードをまとめたけど、「これで抜け漏れが無いのか」とか「これで良いのか自分達ではわからない」ということです。
カードをまとめる際には、当社側のこれまでの知見をお伝えしながら作業をお進めいただいているますが、それでも100%ではありませんので、訓練を通じて修正していくことが不可欠です。
とは言いながらも、慌てるような場面で、
まず何をする
次に何をする
ということが整理されていることには意味があると考えています。
(3)停電、断水時に患者対応をどうするか?
停電で人工呼吸器が止まってしまった場合に、手動で使う機器があります。
ご支援した病院の看護部の方はその機器の使い方を知っておられましたが、あまり馴染みの無い方法を行う場合は手順書等を準備しておくことが必要となります。
上の文書3「特定作業の実施マニュアル」はそのためのものです。
(4)今年の訓練をどのようにしようか?
病院の方からお聞きすると、秋には病院関連のイベントも多数あるようで、秋のイベントが終わってからの訓練はどうしても寒い時期になったりするようです。
しかし、秋ごろにやっと「今年の防災訓練やBCPの訓練はどうしようか?」という話をよく聞きます。
これは、訓練や院内の教育をいつやるのかというルールが決まっていないため起きることです。
そのため、上の文書4「BCP運用計画」にそういうルールを決めておくことが有効になります。
当社が取得しているBCMSには、災害時に動くためのBCPと運用するためのマニュアルが別に整備されています。
いざという時に動けるように、日ごろの運用方法を計画の中で決めておきましょう。
その他、利用する様式や必要な情報を整理しておくことが必要ですので、それらもまとめておくようにします。
いずれにしても、各部署に厚い(又は薄い)BCPを配布していても、各部署のスタッフがそれを見て動くことは想定しにくいです。
そこで、なるべく動ける計画づくりを進めるためには、上記のように必要な人に必要な情報が渡るような計画づくりを進めるのが良いと考えています。