今年に入って、災害対策基本法の改訂やその他の防災関連対策の見直しが国レベルで精力的に進められています。
今回の記事ではそれらの動きの中から、企業や事業所の取り組みに影響のある部分をピックアップしました。
避難情報の変更(避難指示について)
近年、大規模水害が続けて発生したことを踏まえ、避難情報の名称が数回にわたって変わってきています。
自分もそれらの変更については追うようにしていますが、前回変更になった名称はかなり長くなったこともあり、正式名称を問われたらちょっと怪しくなっていたところです。
平成30年3月に避難情報は下記のような5段階による区分となりました。
(出典:国土交通省「避難勧告等に関するガイドライン」平成31年3月)
しかし、このように変更された避難情報については
- 避難勧告が発令されても、避難をせず、被災する人が多い
- 避難勧告と避難指示(緊急)の意味の違いが十分理解されていない(意味の違いを正しく理解しているのは2割という調査結果あり)
- 警戒レベル5(災害発生情報)は何をすればよいのか分かりにくい
- 警戒レベル3(避難準備・高齢者等避難開始)は名称が長く、高齢者に避難を求める情報であることがわかりにくい
と言った課題がありました。
自分も当時、かなり分かりにくくなったなあ・・と感じたところでした。
このような課題を解決するため、避難情報については新しい名称が検討され、本年5月20日から下記の名称で運用開始となっています。
図2 避難情報の新しい区分
(出典:新たな避難情報に関するポスター・チラシ)
今回の変更により、以前の避難指示(緊急)、避難勧告という表現が、避難指示に一本化されたたため、わかりやすくなったと感じます。
また、警戒レベル3の高齢者等避難も、取るべき行動が分かりやすくなっています。
今回の改訂で、一般企業の初動対応マニュアルやBCPについては、警戒レベル3の高齢者等避難で具体的な避難準備を開始し、避難指示で避難を開始すると変更しておくことが必要でしょう。
防災基本計画改訂による変更について
上記の避難情報の変更は災害対策基本法の変更に基づくものです。
その結果、防災基本計画についても関係する点がいくつか変更されました。
上記の避難情報以外の項目で、民間企業に関わりがあるものをピックアップしました。
運輸事業者に対する運輸防災マネジメントの推進
国土交通省は運輸事業者に対して、防災と事業継続の取り組みを支援するために助言等を行う「運輸防災マネジメント」を推進するという項目が新規で追加されました。
これは昨年令和2年7月6日に「運輸防災マネジメント指針」が公表されています。
この指針では、運輸事業者に対して防災と事業継続の取り組みを求めており、BCPの整備と事業継続マネジメントの導入の取り組みを促進していくことが示されました。
今後、運輸事業者においてはBCPとBCMが浸透していくことになると思われます。
雪害対策編
今回の改定で大規模な車両滞留を踏まえた対応として、従来は「道路拡幅や待避所の整備を進める」とされていたものが、「滞留車両の排出を目的とした転回路の整備等を行う」という表現に改訂されました。
また、雪害の発生が予想される場合は「情報板やビーコン等により情報提供する」とありましたが、高速道路事業者と連携して「大雪に対する緊急発表」を発表し、外出を控えることや広域的な迂回について情報伝達するという記載に変更となっています。
国土交通省のウェブサイトを見ると、この「大雪に対する緊急発表」は平成28年度から毎年度発表されており、その他にも地方整備局が「道路利用者の皆様への呼びかけ」を発表し、「予防的通行規制区間」を設定していることを伝えたりしています。
福祉施設における避難体制整備支援とBCP策定の徹底
平成29年6月19日の水防法の改正に基づき、浸水予想区域内や土砂災害警戒区域内に立地している福祉施設や学校、医療機関は避難確保計画の策定と訓練の実施が義務付けられました。
弊社では福祉施設のBCPと一緒に、避難確保計画も一緒に整備するご支援もさせていただいたことがありましたので、このあたりの様子は把握できています。
しかし、福祉施設では施設利用者を移動して行う避難訓練を実施している例が少なく、また大規模風水害が発生した場合は職員がすぐに施設にかけつけることができないことや施設内では階段を使った垂直避難を行うのは相当厳しいことなどの課題が見られていました。
そこで、本年3月18日に開催された厚生労働省と国土交通省による「令和2年7月豪雨災害を踏まえた高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会」では、さらに一歩進んだ制度づくりが提示されました。
避難確保計画とその見直しについては、市町村や専門家が個々の福祉施設に対して、避難先の選定や計画の見直しについて助言や勧告を行う支援策を講じると記載されました。
また、BCPの策定の徹底という項目も見られています。
福祉施設のBCP策定については、厚生労働省が「令和3年度介護報酬改定について」において、感染症と災害に対するBCPの策定と研修実施、訓練実施を3年間の経過措置期間を設けて義務化することを規定しました。
福祉施設向けのBCP策定を支援するために、平成2年12月に厚労省が介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)ガイドラインをまとめています。このガイドラインを解説する動画も用意されており、厚労省の本気度がうかがえます。
以上のように、近年の災害発生の教訓や対策の見直しの検討を踏まえて、対応策に複数の変更が行われています。
今回提示された福祉施設のBCPの策定の協力な推進は、災害拠点病院の指定要件にBCP策定と訓練実施が組み込まれたのと同様かそれ以上のインパクトになると感じています。
今回はかなり利用しやすいガイドラインが整備されているため、時間をかければ何とか進むのではないかと期待はしています。