国土強靭化年次計画2022について

レジリエンス

内閣府の「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」の第64回(令和4年4月26日開催)の資料が公開されています。

この懇談会は平成25年3月5日に第1回が開催されてから、継続的に行われており、国のレジリエンス(強靭化)に関する総合的な施策推進について意見を交わす場であるため、国土強靭化計画とその年次計画についても議論されています。

この懇談会で提示された資料等から、主にこの2つの資料を見てみました。 ・国土強靱化年次計画2022(素案の検討資料)

・国土強靱化基本計画の変更に向けて

上記の内、「国土強靭化年次計画2022(素案の検討資料)」は、5月末の検討を経て、6月に閣議決定するためのもので、まだ精査途中の資料です。

これらの資料の中から、BCPや事業継続体制に関連する事項をピックアップし、あわせて個人的な考察を加えてみます。

目次

レジリエンス(事業継続)に関連する内容について

上記の内、「国土強靱化年次計画2022(素案の検討資料)」に記載されているBCPや事業継続体制に関する事項を整理しました。

1.中小・小規模事業者への支援

(1)実質的な取り組み普及  

・民間企業の取組を一層促進する。

(2)企業連携型取組み  

・企業連携型の事業継続の取組みを推進する。  

・遠隔地での代替生産等の好事例をもとに、係る取組みの重要性の認識の深化を図る (3)適切な保険プラン  

・豪雨災害に備えた保険プランへの見直し、加入促進に向けた施策検討を実施

(4)水害対策  

・民間企業への水害対応版BCPの策定促進等の取組を着実に推進する

(5)事業継続力強化計画  

・計画策定の個別支援  

・連携事業継続力強化計画の取組みを増やす

2.企業の体制整備

(1)地方への本社移転  

・企業の本社機能等の地方移転、拡充を地方拠点強化税制(オフィス減税、雇用促進税制)等により積極的に後押する。

(2)物流  

・製造業、物流事業者のBCP策定の促進や災害に強い物流施設の整備促進を実施する

3.社会インフラの体制強化

(1)空港BCP  

・各空港のBCP(A2-BCP)の対応体制の構築と実効性の強化

(2)港湾BCP  

・港湾BCPの継続的な見直し

(3)下水道BCP  

・下水道BCPのブラッシュアップ(訓練実施や見直しの推進)

(4)工業用水  

・BCP策定による工業用水の強靭化

(5)石油・ガス  

・石油、ガスの系列BCPの見直しと石油業界の災害対応力の強化

(6)物流  

・貨物輸送事業者のBCP策定の促進  

・太平洋側物流網分断等の影響をBCPに反映する  

・荷主と物流業者が連携したBCP策定を促進する

(7)金融機関  

・すべての主要金融機関でのBCP策定、通信やデータのバックアップサイト確保

(8)郵便  

・郵便事業のBCPの見直し

(9)食品製造  

・水産物の生産・流通において、食料の安定供給のための個別地域BCPの策定促進  

・食品サプライチェーン全体のBCP策定を促進する  

・園芸産地の事業継続対策  

・複数農業者によるBCP策定の支援

4.医療機関の対策の充実

(1)災害拠点病院  

・策定率は100%となっているため、BCPに基づく訓練が定期的に行われるよう促す

(2)その他病院  

・救急救命センター、周産期母子医療センターは優先的にBCP策定研修の受講施設とする

(3)医療・福祉施設  

・災害ハザードエリアからの移転やピロティ化等の対策実施

5.政府系組織・自治体取組

(1)政府組織のBCP  

・計画の実効性評価により、業務継続体制の強化

(2)地方自治体のBCP  

・BCPの策定、見直し、実効性確保のための取組、受援体制整備

6.地域ごとの専門人材育成・認定の仕組み  

・専門人材の各地域で育成し、認定する仕組みを構築する

以上のように今取り組みまれている内容がかなり網羅されていると思いましたが、国土交通省が進めている建設BCP認定制度や厚労省が進める介護施設へのBCP策定義務化の動き、サイバー攻撃に対するBCPについては触れられていませんでした。

この3つについても、国のレジリエンスに関係していると思いますが、これら3つを含めたレジリエンス(BCP)に関わる全体を網羅した計画というものはどうも無さそうということが今回分かりました。

強調された2つの要素

2022版の資料では、取組みの重点個別事項として5つの項目があげられています。特に2つについて強調されたと感じました。

1つ目が気候変動対応です。

これまでの年次計画においても、気候変動への対応については記載されていました。しかし、第5次評価から8年ぶりとなる『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書』が4月4日に公表されたことから、気候変動への対応を国土強靭化につなげる取組みを強力に推進していく方針が今回示されました。

気候変動対策は長期的な計画と対応が必要となりますが、台風の大型化や集中豪雨の発生等による地域の洪水対策のみらならず、平均気温の上昇がもたらす企業活動等へのさまざまな影響に対して、国をあげて対応していくことになります。

そのため、民間企業においても、今後、取り組みの重要度が高まってくると思われますし、BCPの中にも加える項目になってくると考えます。

2つ目が「新技術、イノベーションへの対応」です。

レジリエンスを高めるために、過去の年次計画でもDXの推進に関わる記載が見られていましたが、2022版では「新技術とイノベーション」が重点事項としてあげられました。

新技術やイノベーションは、他の計画となる『科学技術・イノベーション基本計画』等とも連携することになりますし、検討中の『AI戦略2022(案)』に基づき進められていくようです。

そのため、防災や強靭化を支える新しい技術が生まれ、普及していくことになりそうです。 中小企業が事業としてこの分野に進出することは難しいかもしれませんが、災害時に活用できる各種システムやサービスの提供は今後大きなマーケットになっていく可能性があると感じます。

技術シーズを使った新ビジネスを考えている場合は、防災・強靭化の分野に目を向けるのも良いかもしれません。

官民連携と民間主導の取組や実質的な取り組み支援は・・

計画の中に「官民連携の推進と民間投資の促進が重要」とあります。

また、「実質的な事業継続の取組みの普及を図る」ことや「企業連携型の事業継続の取組みを推進する」という記述も見られています。

これまでの国の取組みでは、ものづくり補助金と連携した「事業継続力強化計画」の普及は大ヒットで功を奏したと感じています。このような効果的な施策が続けて検討され、実施されることを期待しています。

事業継続力強化計画は、それほど大きなメリット提示は無かったと感じていますが、各企業にとっては結構なインセンティブになったようです。

そこで、もう少しだけプラスアルファのメリットが得られる税制優遇や補助金の提示ができれば、普及に弾みがつくはずです。

しかし、恐らく懇談会の事務局はいろいろなしがらみのあると思うので、仮に委員の先生方から、思い切った提案があっても、その実現は相当難しいんじゃないかと思われます。

個人的にはBCP普及に長年携わりましたが、「BCPの必要性を説く」という正攻法ではBCP普及は絶対的に難しいというのは経験済です。

そこで、時限的にでも相当な予算を付けるとか、何か思い切った方策(メリット享受が得られる方法)が取られないものか、と考えますし、今後の取組みに期待する部分です。

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