災害時に電話(電話一斉送信システム)がつながらないリスク

9月に入り残暑が続きますが、今年も各地で豪雨災害が発生し、被害にあわれた方にお悔やみ申し上げます。

弊社では、今回のような災害時において、多くの自治体様にメールを活用した情報伝達手段として高速メール配信サービスインフォプラットをご提供しています。

そのようなご要望にお応えするために、弊社では必要に応じて他社様と連携しサービス提供させていただいております。

ですが、電話は特に災害時の利用において情報を伝達する際に阻害要因となるリスク(伝達阻害リスク)があるため、ご利用されるお客様については、それらのリスクについてご理解いただいたうえで、ご利用いただいております。

本稿では、電話に潜む各種伝達阻害リスクにフォーカスを当て解説していきます。

本稿を最後まで読んでいただくと、

  • これから導入をご検討されるお客様については、導入に向けての必要な検討課題が見えてきます。
  • すでに導入されているお客様については、電話の特性について理解が深まり、適切なタイミングでの利用が可能になります。

それでは、始めていきましよう!

目次

災害時の連絡手段としての電話一斉送信システムの評価

早速ですが、以下の表は令和2年3月に消防庁防災情報室が各情報伝達手段に関して情報伝達能力を取りまとめた資料です。

(図をクリックすると拡大します)

hikaku(消防庁防災情報室 令和2年3月 「災害情報伝達手段の整備等に関する手引き」より作成)

 

電話一斉送信システムは、「伝達対象・範囲」を見ると市町村防災行政無線(戸別受信機)と同等の評価でありながら、既設のインフラ(電話回線)が使えることから、安価に導入することが可能です。

またテレビとは違い、PUSH型の情報伝達が可能であり、注意喚起の効果も高いと言えるでしょう。

 

一見すると電話は魅力的な情報伝達手段ですが、「伝達阻害リスクへの耐性等」を見ると輻輳停電についてリスクがあると評価されています。

 

早速、今回のメインテーマである「電話」に潜むこれらリスクについて順番に解説していきたいと思います。

 

 

災害時の電話に潜む情報伝達に関するリスクとは?

輻輳リスク

まずは輻輳リスクについて解説していきたいと思います。

 

そもそも電話の輻輳とはどのような現象かについて、以下を参考にいただければと思います。

 

輻輳(ふくそう)の概要 

輻輳(ふくそう)とは、特定の交換設備やエリアに対し通信が集中することにより、交換設備
の通信の疎通能力が継続的に著しく低下する現象です。

fukusou

hikakuhyou

(出典:データブックNTT西日本(災害対策) 輻輳(ふくそう)の概要

 

上記内容を簡単にまとめると、輻輳は被災地域外から被災地域へたくさんの電話が集中することをきっかけに、電話がつながりにくくなることを言います。

それを改善するために被災地域外からかかってくる電話の制限を行います。

今回の輻輳リスクを解説するにあたり特に注目いただきたいところとしては、この「被災地外からの電話の制限」という部分です。

 

電話一斉送信システムは、クラウド型のサービスのため、サービスの提供拠点が被災地外であれば、そこからの電話は当然「被災地外からの電話」と同様の位置づけになります。

よって電話一斉送信システムを用いた電話連絡は、災害時には輻輳の影響を受け、電話がつながりにくくなる可能性があるため、輻輳リスクがあると言えます。

 

停電リスク

次に停電リスクについて解説していきます。

 

ご存知の方が殆どだと思いますが、電話は基本的に停電時にも利用可能ですが、下図に示すように近年では固定通信(NTT東西加入電話(ISDNを含む)が減少し、IP電話の利用者が増えてきています。

 

IP電話は、ひかり電話などの0ABJ型IP電話と、インターネットプロバイダ等で提供される050型IP電話のタイプに分かれますが、その2つのタイプを合わせると、加入数は4,000万を超え、固定通信(NTT東西加入電話(ISDNを含む)の実に2倍以上となっています。

n3202010

(出典:総務省「令和元年版 情報通信白書」

 

このIP電話は、インターネット回線を利用し通話を行うサービスのため、電話機以外にもインターネット接続機器(ONUやVoIPルータ等)が必要となります。

 

インターネット接続機器は電源が必要ですので、停電時はインターネット接続ができなくなり、その結果、電話の利用ができません。

加えて、CATV網を利用するIP電話も同様に、停電時は電話の利用ができません。

 

また従来のアナログ網を利用する電話については、基本的に停電時においても電話の利用は可能ですが、最近電話機も様々なタイプが出てきており、電話機の中には電源を取らないと動作しない電話機もあります。

そのようなタイプの電話機は停電時に利用できないため注意が必要です。

 

ここまで主に一般家庭における停電の影響について解説しましたが、電話をつなぐための通信設備(交換機等)についても停電の影響を受けます。

短期的な停電であれば、非常用電源などにより通信が確保されますが、長期的な停電になると通信できなくなる可能性があります。

 

・IP電話の利用が進み、停電時に電話の利用が出来ない人が増えている。

・電話機のタイプによっては停電時に利用できない可能性がある。

・通信設備についても停電の影響を受ける。

 

以上のことから、電話は総合的に停電リスクが高いと言えます。

 

情報遅延リスク

実は電話のリスクは輻輳と停電だけではありません。

最後に電話一斉送信システムに潜む最大のリスクである「情報遅延リスク」について解説していきたいと思います。

 

電話一斉送信システムは、発信方式(IP回線/普通回線)の違いや発信速度、情報の受け手となる登録者数により、情報が提供される時間(速度)は様々ですが、そのどれもが1つの共通課題を持っています。

 

それは、情報発信し始めてから最初の人への情報伝達から、最後の人への情報伝達まで伝達時間に開きがある(以下、「情報伝達所要時間」と記載)ことです。

登録者数が多ければ多いほど、情報伝達所要時間も比例して長くなります。

 

情報伝達所要時間が長いと、「すぐに情報が届く住民」と「遅れて情報が届く住民」が出てきます。

「遅れて情報が届く住民」にとっては、遅れて届いた災害情報が最新の情報であるという誤った認識を持ち、その情報を元に避難を行うなどの可能性があるため、危険を伴います。

 

このことについて以下の想定ケースから考えてみましょう。

<想定ケース>

 【前提条件】

 1分間に60発信可能な電話一斉送信システムに住民2,000人が登録していると想定

 情報伝達所要時間:34分( 2,000 ÷ 60 ≒ 34 )

 

 【発信からの経過時間における災害情報伝達者数】

発信からの経過時間 新規伝達者数 総伝達者数 総未達者数
0分~5分 300人 300人 1,700人
5分~10分 300人 600人 1,400人
10分~15分 300人 900人 1,100人
15分~20分 300人 1,200人 800人
20分~25分 300人 1,500人 500人
25分~30分 300人 1,800人 200人
30分~35分 200人 2,000人 0人

 

発信から20分を経過後・・・

・約800人に災害情報が届いていない。

・約300人に15分以上前に発信された遅れた災害情報が届く。

 

発信から30分を経過後・・・

・約200人に災害情報が届いていない。

・約300人に25分以上前に発信された遅れた災害情報が届く。

 

発信から20分を経過後・・・

・約800人に災害情報が届いていない。

・約300人に15分以上前に発信された遅れた災害情報が届く。

 

発信から30分を経過後・・・

・約200人に災害情報が届いていない。

・約300人に25分以上前に発信された遅れた災害情報が届く。

 

【自主避難に伴う「遅れて届く災害情報」の影響(混乱)】

  • 30分前に発信された電話で告げられた避難場所と、テレビで放送されている避難場所が違っていたら、あなたはどこに避難しますか?
  • テレビでは「避難指示」と出ているが、その後30分前に発信された電話で「避難勧告」と告げられた時、あなたは避難行動をとりますか?
  • あなたは電話で告げられた情報が、「遅れて届いた災害情報」であると気付けますか?

 

上記のように「遅れて届く災害情報」は混乱を招くことが予想されます。

 

例えば刻々と状況が変化する風水害では、情報伝達にこのような遅れが発生すると、住民の避難が遅れ、非常に危険です。

よって、電話一斉送信システムにて災害情報を伝達する際は、適時的確に、情報伝達所要時間を極力無くすことが求められます。

 

まとめ

今回のコラムはここまでですが、「電話」は安価で利用しやすい反面、電話の特性から災害時の輻輳リスク、停電リスク、情報遅延リスクがあることをお伝えしました。

電話一斉送信システムを導入検討する際は、それらのリスクを考慮する必要があることをご理解いただけたかと思います。

弊社では単にサービス提供のみならず、各種情報伝達媒体の評価や、どのような方に対して有効であるかの評価などを行い、お客様事情に合わせて、災害情報の配信にかかるシステム整備のアドバイスなどもさせていただいております。お気軽にお問い合わせください。

最後になりましたが、本稿が少しでも誰かのお役に立てればと願っています。

今後ともよろしくお願いいたします。

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