内閣府が掲載している「防災情報のページ」に講評されている情報によると、「日本の年平均気温は、100年にあたり1.19℃の割合で上昇しており、猛烈な雨(1持間降水量80mm以上の雨)の間発生回数も増加している。」と記載されています。
そのため、少し昔なら数年に一度発生していた記憶に残るような豪雨による災害が、毎年のように発生しています。
今までBCPの策定では対象脅威に地震を想定し、地震発生後の初期対応、復旧対応、そして事前準備について計画することが多く見られていました。
しかし、近年は水害を想定したBCP策定が推奨されるようになってきました。
水害を想定したBCPとは
地震を想定した場合と水害の場合で最も異なるのは、気象庁の発表などから、災害発生の時期や規模が予測できること。
先日の九州での豪雨による避難勧告、避難指示、特別警報は、全てのテレビ、ラジオ、そしてインターネットで確実に通達されました。
昨年の西日本豪雨の記憶が新しく、避難に遅れて自宅で命を無くされた方はおられなかったようです。
水害を想定したBCPを計画する場合も、この警報を利用すれば確実に策定できます。
よく用いられているのが、タイムラインという行動計画で、以下のようにどのタイミングで何をするかを図表に記述する手法です。
(1)契機の明確化
先ずは最初の行動契機(BCP発動基準の設定)を明確にしておく必要があります。
「XX川の水位がXXcmで避難勧告が発令された場合」、「XX地区で、避難指示が発令された場合」など、各地域の特性に沿った発動基準が必要です。
まずは地域のハザードマップを収集します。
よく分からない場合は、行政の担当に相談して決めるのも良いでしょう。
ここを適当にしてしまうと、初動対応開始やBCP発動の信憑性が薄れ、行動が遅れたり、逆に、不要な事業中断をまねき、経営に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)実行内容と順序を記述
次に行うのは、何から行うかを決めておくこと。
水害の発生が事前に分かっていたとしても、各自がバラバラに行動すれば、最も重要な設備や資材が取り残されて被害にあったり、取り残された物に対する無理な対応のために人的被害が発生したりする可能性もあります。
事業継続に必要な資源の洗い出しは、今までのBCP策定手順と同じです。
是非、水害を想定したリスクアセスメントも実施してください。
(3)復旧方法も記載
復旧の順序も重要な要素になります。
気象庁の発表で避難指示等が解除されても、事業再開できるような状況になるには時間を要します。
昨年の岡山県倉敷市真備地区で浸水した企業では、約3日間、復旧作業ができなかったようです。
なるべく早く事業再開するには、再開の順序も的確に決めておかなければ、作業の後戻りが発生し遅延を招きます。
そして、最も重要なのは、水害を想定した事前準備です。
水害への備え
水害への備えの代表例を紹介します。
(1)防水対策
もっとも確実な防水対策は、事業継続に必要な資源を高床化した場所に移すことです。
大規模な工作機器を移すのは困難かもしれませんが、その機器で水に弱い部分だけ(例えば電源設備)を移すだけでも被害を縮小できます。
(鳥取県のある企業では、水害を考えて、工作室のコンセント位置を床から1m以上の高い位置に設置しなおしているところもありました。)
高床化ができないなら、施設の水が入ってくる場所(一般的には出入り口)を防水壁で覆うこと。
あまり高い壁を作ることは不可能ですが、数十センチの浸水には耐えることができます。
(2)システムのクラウド化
現在の事業には、情報システムは無くてはならない資源の一つなっています。
そのため、システムを2F等の高い位置に設置したり、電源を切らせないようにUPS(無停電装置)や自家発電設備を準備している企業も少なくありません。
その設備構築には相当な費用がかかっていると思われます。
システムが近くに無いと保守運用がやり難いというのは昔の話。
クラウドを利用すれば、保守運用からも開放されます。
よくネットワーク障害で業務が停止することを不安視されますが、多少の経費をかけて2系統のネットワークを準備しておくことでリスク回避できます。
働き方改革の1手法としてテレワークが実践されつつありますが、そのために構築するシステムはクラウドで構築するほうが、利便性の高いものになるでしょう。システムのクラウド化を再度検討してみてはどうでしょう。
(3)定期的な訓練によるタイムラインの見直し
水害には事前に対応できると言っても、対応する人が必要です。
電話やメール、SNSなどで連絡は取れても、誰が何をするかが決まっていなくては人を集めても何もできません。
タイムライン作成時には、個々の作業担当者を記述しますが、それだけで動けるものではありません。
タイムラインに沿った訓練を定期的に実施し、全社員で共有するとともに、訓練により様々な気付きを導き出してください。
その気付きが企業にとって最も重要な財産になるでしょう。