病院BCPは災害対策マニュアルで動いているが・・

新型コロナウイルスに罹患された皆様および関係者の皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

既に企業活動には様々な影響が出ていますが、今後はさらに広範囲に影響が広がり、長期化することも想定され、今まで影響の少なかった業種においても備えが必要でしょう。

今回の記事ではBCPの策定が終了した災害拠点病院で進められているBCP訓練から得られた知見についてお伝えします。

他業種の方にも参考になる部分は多いと思いますので、目を通していただけると幸いです!

目次

災害対策マニュアルでは病院BCP訓練時に本部が混乱!

これまで拝見した病院のBCPには「災害が発生した後の動き方」がほとんど規定されていませんでした。

そのため、災害拠点病院に要求されるBCPの訓練は、別途定められている『災害対策マニュアル』をもとにした対応を行うことになります。


医療機関以外の方には聞きなれない災害対策本部の役割の一つに「災害レベルの決定」というものが、ほとんどの災害対策マニュアルに規定されています。

これは、災害により病院が受けたダメージレベルを決めるもの。

  • 最悪が「病院避難」が必要なレベル
  • 停電や断水等により、病院機能が大きく制限されるレベル
  • 建物設備にはほとんど影響無く、医療サービスは提供できるレベル

といったようなレベル分けです。


これを早い段階で見定めて、病院の状況に応じた対応をしようというものです。


病院が災害対応の訓練を行うと、この「災害レベルの決定」については以下のような状況が起きます。

まず、被害状況が付与された各部署からは、一度に災害対策本部に対して様々な状況報告がされます。

災害対策マニュアルに用意されている「被害報告書」には職員や入院、外来患者が何人いて、どのぐらいの被害を受けた人がそれぞれ何人いる、建物やライフラインの被害はどうか・・など、詳しい情報を記載するようになっています。


それらの情報が本部長に向けてどんどん報告されます。

頑張る本部長であれば、受けた報告に対する対応指示を都度出し続けます。


本部に報告された情報は、「クロノロジー」という記録係が時系列でホワイトボードやライティングシートに記録し始めます。

複数人が担当し、本部に報告される情報を延々と記録をしていきます。

このような感じで、「やっている感」はあるのですが、本部では全体の状況が把握がなかなかできないまま、時間がどんどん過ぎていきます。

ある段階で災害対策本部長が集まった情報をもとに、「災害レベル」を決定します。

しかし、今までの動きが続くのみで何かが変わるということがありません。


こういう様子を全ての病院の訓練で見かけました。

災害対策マニュアルに基づく病院BCP訓練時の課題

災害対策マニュアルに従って運用を行われる病院の訓練を、複数個所で見て分かったことは、以下の3つができていないということでした。

それは、

1)災害レベルを決定する目的が十分認識されていない

2)どの情報に基づいて災害レベル決定をするのかが認識されていない

3)災害対策本部に報告された情報の選別がされていない(情報処理が不十分)

ということです。


この3つの課題への改善点は以下の3つであると考えられました。

1)報告される様々な情報の中で、発災直後には何に注目すべきなのかを認識すること

注目すべき情報は以下の2つと思われます。 

・まずは「病院避難」が必要なほど、建物被害が発生しているのかどうかを見極めるための情報

・自部署で対応できない傷病者が発生しているかどうかを確認するための情報


2)各部署はどの情報を急いで報告する必要があるのかを理解しておくこと

上記2点が最重要ポイントだと理解されれば、何を確認するのか、どのぐらいのスピード感で報告が必要なのかが自ずと決まってきそうです。


3)本部では報告された情報から、重要情報を引っ張り出し、それをまとめて、本部長が判断できるようにすること

以上の3つに対応するためには、本部員は特に重傷者発生の有無と建物被害の程度がすぐに判断できる情報の収集・整理を行うことが必要です。


従来の病院での訓練では、入ってくる情報をただ機械的に時系列で延々と記録をしていました。

しかし、それでは迅速で的確な状況判断はできていませんでした。 

災害対策マニュアルで規定すべき初動の本部の動きの提案

以上の課題認識と改善の考え方を踏まえて、初期の災害対策本部の動きについては、以下のように変更する提案をし始めています。

1)発災初期の報告のために、報告項目を絞った「速報用の様式」を用意する

2)各部署は災害発生直後に、その被害速報を短時間で行う

3)本部では、建物被害の程度と重傷者有無をまず判断できるように、その情報のみを抽出して本部長に提示する

ここまでは本部員全員で同じ動きをする


次に災害レベルが決定されたら、


1)決定された災害レベルに応じた指示事項を事前に決めておき、それを参考に具体的な対応指示を行う

2)本部のモードを各グループが機動的に動き始めることができるように、対応の「モードチェンジ」をする

このような対応により、初動期の本部の混乱が軽減され、災害レベルの決定までのスピードがあがるとともに、災害レベル決定後は院内全体が自動的に動き始めることができるようになると考えています。

まとめ

今回は3つの災害拠点病院の災害対応訓練を評価することで、BCP発動が必要となるような事態発生時の初期対応に関する改善点について紹介しました。

・発災初期は重傷者発生、建物被害レベルを見極める情報が重要
・本部では報告された情報の選別と処理を進める
・災害レベル決定後はそのレベルに応じた対応を開始する

という対応が必要であることをお伝えしました。


院内の訓練企画者では、なかなかこのような事まで考えるのは難しそうですので、コチラからご相談いただければと思います。

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